番外編が続くようで何ですが、これほどゴージャスな話題提供もそうはできないと思うので、忘れないうちに書いておこうと思う。
といってももう2ヶ月前の話、GWに北欧へ行ってきた。コペンハーゲン→ヘルシンキ→ストックホルムという、おそろしくベタなデザイン王国を巡る旅(だって初北欧だし)。
最初に訪れた都市コペンハーゲンはいわずとしれたビルマニアの、いやモダンデザインの神様、アルネ・ヤコブセンの聖地。中央駅の目の前にはシンボルのようにSASロイヤルホテルが屹立する。
1960年にヤコブセンの設計によって建てられたが、近年別の建築家によってインテリアがほぼ全面的にリニューアルされた。そのなかで唯一、スイートルームの606号室だけが「ヤコブセンスイート」としてオリジナルのまま残されている。「今度いつ来られるかわからない」と呪文を繰り返し、冷静な判断ができない私たちは、もういっとくしかないだろう、と勢いで予約してしまっていたのだ(もちろん一泊だけ)。
何せ『ROOM 606』で一冊の本が出るくらい有名な部屋だ。写真はいろいろ見ているし、プランも事前に頭に入ってる。置かれている椅子はもちろんお馴染みのヤコブセンチェアたち、日本のショップで(緊張しながら)座ったこともある。そしてディテール求道者なら誰しも手本にするヤコブセンだが、部屋のディテールは思いのほかざっくりしている。
どうもこう、もうひとつ感動がこない。長時間フライトの疲労や、久しぶりの海外での緊張、そこに「大枚はたいてるんだから」的小市民な感情も重なったのだろう。もちろん興奮して写真を撮りまくり、細部の寸法を押さえて大満足なのだけれど、どうも空間のキモを掴み切れてない、という感覚が残る(だいたいスイートルームというもの自体が初体験で、他にサプライズも多すぎた。「これがウェルカムフルーツというものか!」とか・笑)。
翌朝を迎えてチェックアウトの時刻が近づき、宿を出る前の何もすることがない空白の時間。そこでやっと一息付いてリラックスできたのだろう、あっ、と気が付いた。
「色」だ。
部屋全体はファブリックも含めてブルーグリーンを基調にまとめられている。とても微妙なニュアンスで複雑な色だ。壁は場所によって色が塗り分けられている。それらの色全体に包まれていると感じたときの感覚は、これまで体験したことのなかった感覚だった。色に包まれる感じ。押しつけがましくもなく、突き放された感じもない。おもてなしの空間とはかくあるべし、なシックなモダン。
設計をする人なら共感してもらえると思うけれど、色というのはとても難しい。特に「ペンキの色」は扱いにくいことこの上ない。微妙な色を塗ろうと(文字通り)色気を出そうものなら、大概結果は悲惨なことに(なった)。だから日本の現代建築には白があれほど氾濫し、色が使われるときは開き直ったビビッドな差し色になる、と個人的には思っていたりもする。
Room 606で初めて色の魔法を知る。やはりヤコブセン恐るべし。そういえば植物を繊細なタッチで描いた水彩画があったっけ。
「色」だけは体験してみないとわからない(自慢)。
追伸
ブーンと音を立ててがんばる古びたエアコンは、日本が誇るダイキンでした。
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